ぜんまいが切れたら


主な症状はリューズを巻いても空回りをして、時計が動かなくなります。

時計のぜんまいは何をするもの?

時計のぜんまいは、時計を動かす動力源。
車に例えるなら、車を動かすエンジンに当たる部分です。
ぶりきのおもちゃや、ギチギチと後ろに引いて手を離すと動き出す、車のおもちゃと同じ構造です。
巻き上げられた反発力を、少しづつ部品に伝えていくことで、時計を動かしています。

ぜんまいの拡大写真

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ぜんまい切れとはどういった状態?

ぜんまいは、細長く平たい金属の板を、ぐるぐると巻いた状態になっています。
この巻かれた板の部分が、巻き上げられることによってバネのように収縮し、その反発力・伸びる力が伝わって歯車が動き出します。
この金属の板がどこかで切れてしまうこと、これが「ぜんまい切れ」という状態です。

切れたぜんまい

 

 

ぜんまいが切れるとどうなる?

ぜんまいが切れてしまうと、動かす力を生み出すことができなくなりますので、基本的には「時計が動かない」ということになります。
最も一般的な症状は、リューズを巻いても巻いても、クルクル・クルクルと空回り。
「巻き上げている」手ごたえが無くなります。
いつもならしばらく巻くと感じられる、巻き上げが重たくなる・リューズが固くなるという感覚が感じられなくなります。

自転車に例えるなら、チェーンが外れてしまって、ペダルも空回りして進むことができない状態。
ペダルを踏んでも踏み込める感覚がなく、ペダルだけが軽くクルクルと回ってしまうのに似ています。

例えばリューズを20回転させて、いっぱいまで巻き上げられる時計があったとすると、ぜんまいが切れると、30回巻いても40回巻いても、いくらでも巻けてしまう、終わりが無い空回り状態になります。
このような状態になると、力を生み出すことができず、時計は動きません。

ぜんまいの切れた痕
【 鋭いぜんまいの切れ口 】

 

切れても動くこともある

ぜんまいの切れ方によっては、一部分だけが切れることもあり、そのような状態の場合は、少しだけ巻くことができることもあります。
ぜんまいの巻きはじめというのは、反発力も弱く、するすると巻き上げられるため、一部が切れていたとしても、切れた部分にある程度の負荷がかかるまでは巻き上げられます。
ただ巻き続けて負荷が強くなると、切れた部分が負荷に耐えられなくなり空回りしてしまいます。

5・6回程度は巻き上げることができることがありますが、それ以上巻くと、中でぜんまいが滑るような感覚がある時がそのような状態です。
少しは巻き上げられることができるため、少しだけ動力も生み出すことができ、短時間・わずかですが時計を動かすことができることがあります。

 

 

ぜんまいが切れたらどうする?

ぜんまい自体は、「いつかは切れてしまう」ことが前提の、完全な「消耗品」という扱いです。
使っていて切れてしまうことがあるのはもちろん、金属ですので使用や経年による劣化やへたりが起こります。

ぜんまいが切れてしまった場合は、ぜんまいを交換することで修理が可能です。
使われているぜんまいの長さや幅・厚み測り、サイズを合わせて交換します。

その時計用に作られたぜんまいがあれば、それを入れてあげるのが良いのですが、一般的なメーカーが10年ほどしか部品を保管しないのと同様に、ぜんまいもその時計のためだけに作られて保管されていることはあまりありません。
また100年以上前から現代に至るまで、時計自体もたくさんの種類やサイズ・メーカーがありますので、その数々の時計に合わせるためのぜんまいも同様に、数えきれないほどの種類と数があります。

メーカー製の専用ぜんまい
【 メーカー製のキャリバー専用のぜんまい 】

 
修理・交換をする場合は、ぜんまいを合わせて入れることが重要になります。
ただ単に交換といっても、適当なものを入れれば良いというわけではなく、できるだけサイズを合わせてあげるのが基本です。
長さが短ければ駆動時間が短くなり、強いぜんまいを入れれば部品に負荷をかけ、幅や厚みが違えば動かす力が変わり、変わった分だけ精度にも関わってきます。

 

 

ぜんまい交換を断られることがあるのは

ぜんまいにはたくさんの種類があり、時計によって少し仕様が違ったり、古い時計になると特殊なもの、もしくは加工が必要になる場合もあります。
現在市販されている時計とは違い、懐中時計や8日巻き時計などサイズの大きな時計がありますので、ぜんまいもそれに合わせて大きなサイズが必要になり、ぜんまいを取り付ける接続部分の形も、時計によって違うことがあります。

ぜんまいの接続部分
【 形の違うぜんまいの接続部分 】

 

年代の古い大きな時計になればなるほど、部品も大きくなり、機械を動かす力も大きくなりますので、ぜんまい自体も長く幅広く厚みも大きくなります。
必要とされるぜんまいも、それらが使用されていた時代のものが必要になり、取り付け口も加工しなければならないケースが増えますので、ただ単にぜんまい交換と言えども、部品を入手できるネットワークや知識、加工のできる技術が必要とされます。

そのため、お店によっては、現在の主流である腕時計のぜんまいしか置いていなかったり、その時計専用に作られたぜんまいを交換することはできても、ぜんまいのサイズを合わせて交換する技術が無いこともよくあります。
また、大きなサイズのぜんまいを取り寄せることができない、取り付けるための特殊な加工ができないこともあるため、お店や技術者によっては、ぜんまい交換ができないことがあります。

 

 

ぜんまいが切れるのはなぜ?

金属部品で伸び縮みを繰り返すため、金属疲労が主な原因です。
ぐるぐると巻かれたぜんまいは、部品の中に収納すると、かなりぴっちりと入る形になり、巻き上げられた状態では固く絞られたような状態になります。

ぜんまいの外側は円周も大きいため、緩やかなカーブを描く程度の円状で負荷も弱いのですが、中央に近くなるほど円周も小さくなり、同じ厚み・同じ幅でありながら、わずかな短い距離で急カーブをしているような形になっているため、より強い負荷がかかります。
中央付近では、小さな円の金属疲労の起きやすい形で伸び縮みが繰り返されるため、かかる負荷も外側に比べて大きいため、ぜんまい切れの7割ほどが中央付近で起こります。
外周に近い部分では、あまり切れることはありませんが、ぜんまいを入れる際に折れ癖を付けてしまうと、入れ方によっては、外周に近い部分でも切れやすくなることがあります。

また次いで多いのが、ぜんまいを留めている接続部分での切れ。
ぜんまいの先端は、ぜんまいを収納する部品に取り付けられる形になっています。
特殊な形状をしているため、形や作りとしても弱い箇所であり、この部分も切れやすくなっています。

ぜんまいの接続部分の写真
【 繊細な作りの接続部分 】

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ぜんまいについてのQ&A

切れていないぜんまいを交換する必要があるのはなぜ?

ぜんまいを交換しなければならないのは、必ずしも切れてしまった時だけではありません。
伸び縮みするバネをご想像いただくとお分かりいただきやすいのですが、バネを伸ばして戻してを繰り返していくと、だんだんと元に戻る力が無くなっていきます。
バネが「へたる」という言葉が一番状態をよく伝えていると思いますが、金属疲労で本来の力を伝えることができなくなります。

そうなると、その時計を動かすのに80~100の力が必要なところを、60・70といった力しか出せなくなったぜんまいでは、必要な力を伝えることができず、精度を出すこともできなくなってしまいます。
このような状態になると、切れていなくてもぜんまいの交換が必要になります。

香箱の中のぜんまい

 

巻きすぎてぜんまいが切れるというのは本当?

あまり手巻き時計をお使いになられたことのない方や、オークションなどで初めて入手された方からのご相談が多いの内容で、「自分が巻きすぎて壊してしまった」とご相談をいただくことがあります。
ただ単に巻きすぎてしまって、それが原因でぜんまいが切れるというのは、基本的にはありません。

リューズを巻いてぜんまいを巻き上げていくと、いっぱいまで巻き上がった状態になると、それ以上巻けない状態になります。
その状態になると、普通の力ではそれ以上巻き上げることはできず、それまでリューズを巻いていた力ではもちろんのこと、かなり力を入れても巻くのは難しいほどの固さになります。
一般の方がこの状態でさらに巻き上げることは考えられず、巻き上げられるとも考えられない状態です。
「壊そうという意図」を持って回さなければ、巻き上げられないほどですので、普通にお使いいただいていれば、巻き上げすぎが原因で切れることはありません。

厳密に言えば、いっぱいまで巻き上げれば、時計にかかる負荷が最も高い状態にはなりますので、7割ほど巻いていただくのと比べれば、確率的には確かに切れやすくはなりますが、あくまで厳密に言えばという程度ですので、いっぱいまで巻き上げることを続けても、それが原因ですぐに切れてしまうかといえば、そのようなことはまったくありません。
詳しくは下記のページ下部の、「巻き上げに関するQ&A」をお読みください。

リューズを巻いて動かす

 

切れると部品を傷めることもある

ぜんまいを収納されている部品から取り出すと、ぱっと弾け飛ぶように広がります。
言い換えれば、それだけの力が凝縮されている状態で、切れるということは、その凝縮された力が一気に解放されるということになります。
しっかりと巻かれた状態で切れてしまうということは、反発力の最も高い状態で切れるということ。

本来なら24時間ほどかけてゆっくりと力を伝えるところが、切れるとその力が一瞬で解放されてしまうため、歯車も一気に回り、歯などが欠けてしまうことがあります。(必ずしも部品を痛めてしまうわけではありません)
そのリスクを避けるため、ぜんまいが切れると部品を空回りさせて、部品を傷めないようにする作りを持つものもあります。

広がったぜんまい
【広がった状態のぜんまい】

 

ぜんまいを交換したばかりでも切れることがある

より古い年代のものほど起こりやすいものですが、物の品質の均一性という点では、昔の物はムラがあります。
いわゆる「当たり」を引けば、何十年も持つぜんまいもあれば、「外れ」を引くと、入れてすぐに切れてしまうものもあります。
運と言ってしまうと適当ではないかもしれませんが、古いぜんまいは特に、長持ちするものとそうでないもの、「持ち」に当たり外れがあります。
また入れる技術も関係していますので、入れる際に偏った形で入れてしまったり、変形させてしまうと、それが原因で切れやすくなります。

使用前のぜんまい

 

使わなくても切れることがある

時計を使わずに保管しておくだけでも、ぜんまいは切れてしまうことがあります。
部品に取り付けた状態・掛けた状態になっていますので、部分的に低い負荷は常に掛かっています。

 

新しい時計のほうが切れにくい

ぜんまいも時代を経るごとに改良され、より切れにくい素材に変わっていきます。
古い年代・懐中時計時代のものは、鉄系のものが主になりますので、金属疲労が起きやすく、そのため新しいものと比べると切れやすくはあります。
新しい世代の時計は、改良されより切れにくい材質が使用されているため、古い時計と比べると、圧倒的に切れにくくなっています。

 

 

ぜんまい切れで修理が必要な時は

ぜんまいが切れてしまうと、時計は動かなくなりますので、ぜんまいの交換が必要です。
年代の古い大きな時計用のぜんまいはもちろん、サイズを問わず懐中時計から紳士物・小さな婦人物の腕時計まで、様々なサイズのぜんまいを取り揃え、特殊なサイズのぜんまいを取り寄せることも可能です。
下記のページから、当店までお問い合わせください。

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