してはいけないこと


アンティーク時計をお使いいただく上で、最低限守っていただかなければならないことがあります。

懐中時計と本

 

 

アンティーク時計を使う上でしてはいけないこと

アンティーク時計は作られてから数十年、長いものだと100年以上が経っているものです。
時計が作られた当時の技術力や時代背景と、現代の時計の完成度と技術力、そして時代背景は大きく違います。
現代の時計では当たり前のことが、アンティーク時計では当たり前でなく、またそれが故にするべきではないことも知っておいた上でお使いいただくと、さらにより長くかつ深く楽しめるというものです。
時計が経た長い歳月に敬意を払い、そしてお年寄りに接するように丁寧に接してあげることが大切です。

 

 

開けてはいけない時計の蓋

現行品の新しい時計は、裏蓋を開けるのも専用の工具が要るほどに、とても頑丈に締まっているものです。
それがアンティーク時計に関して言えば、懐中時計は大きなものであるほど比較的開きやすく、腕時計に至っても、インターネット上を探すと、開くための工具や開き方の紹介がされていて、比較的簡単に開けることができるものです。

【 市販されている工具 】
こじ開け

ただし、どんなに興味を惹かれたにしても、時計の蓋だけは絶対に開けてはいけません。
機械式時計の「蓋を開ける」という作業を行えば、プロと素人を問わず、必ずゴミやホコリが入ってしまいます。
ただのホコリ程度、糸くず一片といえども、非常に繊細なバランスで動いている部品に絡まったりすれば、動作を阻害したりバランスやタイミングが狂い、誤動作や止まりの原因となります。
またうっかり部品を触ってしまうと、羽を撫でるような力でも変形するような部品があり、外して戻すだけと思っている部分でも、そこにわずかな違いが生じます。
興味本位で見てみたものの、それが部品を壊してしまい、元には戻せない・時計を動かすことができない原因にもなりかねず、時計にとっては命取りにもなりかねない危険な行為です。
開けてはいけない蓋は、表蓋・裏蓋を問わずに開けるものではありません。

 

 

こんなにも小さな時計の機械と部品

蓋を開けてはいけない・それ以外にも、アンティーク時計・引いては機械式時計をお使いいただく上で、気を付けていただきたいのは、本当にそれぞれの部品が小さく、軽い力がかかることはもちろん、ホコリにすら影響を受けてしまうほどのサイズしかない部分があるためです。

下の写真は40年代頃の一般的なサイズの、男性用と女性用の腕時計の機械です。
米粒と比べてみていただいても、それぞれの部品が小さいことはおわかりいただけるはずです。

男性用と女性用の腕時計の機械を米粒と並べる

そしてさらにご覧いただきたいのは、知識が無いままに機械を触ってしまうと壊してしまう代表的な部品を2つ。
修理に出して、この部品が破損している・変形しているので修理ができませんと、断られる理由になる大切な部品でもあります。

腕時計の天真

「天真」と呼ばれる、心臓部分に当たる軸の部分。
米粒と比べてもどれほど小さな部品であるかおわかりいただけると思いますが、それよりもさらにご覧いただきたいのは、その軸の先端の細さです。
この部分が折れたり曲がったりするだけで、時計が使えなくなるのです。

時計のひげぜんまい

「ひげぜんまい」と呼ばれる、髪の毛のように細く、蚊取り線香のような形をしている部品です。
この部品も同様に、メーカー・型番・時計サイズによって全て違い、同じものが無いと替えがほぼ利かない物です。
写真でご覧いただける通り、「ひげ」英語ではヘア(毛)スプリングと呼ばれるほど、本当に毛のように細い部品です。
軽く触れるだけで変形してしまうことはもちろん、変形や長さが足りなくても精度がでないという非常に繊細なものです。

このような繊細な部品で成り立っていること、またそれぞれが絶妙な間隔やバランスで動いているため、ホコリが付くだけで重さや摩擦が変わり動作に支障をきたすことはもちろん、軽くでも触ったり分解をすると、元に戻すことはできなくなってしまいます。
絶対に蓋を開けてはいけないという理由はここにあります。

【 細い裁縫用の糸とひげぜんまい 】
ひげぜんまい
壊れた大型の懐中時計のひげぜんまいです。
一緒に写っているのは、裁縫用の細めの糸ですが、それよりもさらに細いのがお分かりいただけます。
大型の懐中時計でこのサイズですので、これよりも細い糸くず・髪の毛でも、簡単に絡みついてしまうことがご想像いただけるのではないでしょうか。

 

 

水や湿気を避ける

なぜ水や湿気を避けなければいけないのか、それは防水機能が無いという1点に尽きます。
古い時計は、防水機能が無いもしくはあったとしても、長い年月の中で失われているものがほとんどです。
またケース等の作りを見ていただければお分かりいただける通り、防水ができるような作りにはなっていません。
メーカーによっても違いますが、おおむね1960年頃まではこのような作りのものが主で、現在のようにスクリューのようにねじ込んで締めこむタイプ、防水機能があると謳われるようになるのは、もっと現代に近くなってからです。

腕時計や懐中時計を問わず、古い時計を水に浸けると、ケースから空気の泡が生じ、内側に水が入っていくのがわかります。
雨で水が入ってしまいそうな日や、汗をたくさんかいて、蒸気や汗が時計内にこもってしまいそうなときには、できるだけデジタル時計等、新しい時計を着けてもらうのが賢明です。
またもちろん生活防水も当然ありませんので、家事などの水仕事の際に着けていただくのもいけません。

 

ケースの作りから防水性を知る

下記の写真は、ごく一般的な作りの1900年頃の懐中時計のケースです。
この頃に防水機能が無いのは当然ですが、蓋が閉まっているのは、金属の凹凸と噛み合わせを利用したもので、密閉とは程遠いものです。
また内側の蓋をご覧いただくと、一部に切れ目が入っているのもわかります。
これは時計よってあるもの・無いものはありますが、蓋を開けやすいように、工具を差し入れるための切り目が入れられています。

懐中時計ケースの裏側

下記の写真は、手巻き腕時計全盛期と呼ばれる40年代の一般的な腕時計のケースです。
メーカーを問わず、上と下に分かれた2ピースのケースを合わせる、このような作りのものがほとんどでした。
40年代の腕時計ケースの内側

懐中時計よりはもちろん締まりは良いのですが、それでもやはり金属の凹凸や噛み合わせを利用しているもので、横からみるとわずかながらも隙間があったり、巻き芯部分に防水用のパッキンも入っていませんので、そのあたりからは水も入りやすくなっています。
また表側の風防部分は、懐中時計や腕時計を問わず、風防(ガラスもしくはプラスチック)回りを接着で留めるという方法になりますので、防水があるとは言えません。
水が入りやすいということは湿気も入ってしまいますので、腕時計の場合は、機械や風防等の作りから、湿気が溜まりやすい中央部分が錆びやすいと言われています。

横から見た腕時計ケース

 

新しい時計でも防水性は失われる

現代の新しい時計であっても、パッキンの劣化やオーバーホールなどで裏蓋を開ける機会があれば、その作業によって金属が削られ、防水性が悪くなることはあります。
新しい時計の良いところは、蓋がしっかりと締められる・気密性が高いという反面、しっかりと締まりすぎるために、例えその時計を製造したメーカーが修理したとしても、開ける際に蓋を傷めてしまうことがあります。
比較的新しい時計でも、防水が利かなくなることがあるのはこのような理由もあり、ある程度の年数が過ぎた時計、何度かメンテナンスを経た時計も防水が甘くなることがありますので、アンティーク時計とまではいかないまでも、水に浸ける・泳ぐといった時には気を付けていただく必要があります。

 

 

磁気に影響を受ける

古い機械式時計は、写真をご覧いただいてもおわかりいただけるとおり、すべてが金属の部品で作られています。
それだけに磁気による影響を強く受けやすく、部品が磁気を帯びると、それが誤動作や止まりに直結します。
写真でご紹介したひげぜんまいなどが影響を受けやすく、部品が磁気でくっついたりすることがあります。

ご使用いただく際に磁気に気を付けていただくのは難しいかもしれませんが、保管の際には磁気が発生するような場所には保管しないようにしてください。
テレビの上や携帯電話の横、電化製品の近くは避けていただくのが賢明です。
また外出の際、エレベーターの中、特に壁側には強い磁気が発生していますので、少し腕を離してあげるのがお勧めです。

ただ水や湿気と違って、錆びなどのように修理ができないような原因になることは少なく、部品自体が磁気を帯びてしまいますので誤動作や止まったりはするものの、修理で磁気を抜けば元に戻る程度のもので、磁気を受けただけであればそれほど深刻な問題になることはありません。

 

 

落下などの衝撃を受ける

時計の部品は歯車などで構成されていますが、それぞれの歯車には軸があります。
また写真でご覧いただいたように、「天真」と呼ばれる部分の軸は細く、かつとても重要な部品でもあります。
落下などの強い衝撃が加わると、この軸の部分に曲がりや折れが生じます。

例え1メートルほどの高さから落としたものでも、重力や懐中時計であればそれ自体の重さが重たいこともあり、固い場所に落ちれば衝撃も強くなります。
現代の時計のように比較的衝撃に耐えるような作りのものであっても、天真折れという破損は起こることです。
時計や機械、破損した部品によっては修理すらできなくなることもありますので、くれぐれも落としたりしないようにご注意ください。

 

 

メンテナンスを受けずに使い続ける

時計には摩耗を避けたり潤滑を良くするために、油が使われていますが、この油は期間が経つほどに劣化し蒸発します。
油が無くなれば、わずかながらでも部品は摩耗しますし、モリブデン油のように劣化すると固くなり、油であるはずがサンドペーパーのように、部品を削ることになってしまう油もあります。
古い時計の場合は、基本的には3年に一度、長くても5年に一度のオーバーホールをお勧めしているのは、油切れを起こさせないことも重要な理由の一つですが、錆びなどの劣化の原因や故障の原因を早めに発見し取り除いてあげることも理由の一つです。

金属で構成される時計は車のようなもの。
定期的に愛車を車検に出されるのと同じように、もし長くお持ちの時計をお使いいただきたいのであれば、できるだけ定期的にオーバーホール・メンテナンスをしてあげることが重要です。

 
 

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