針と文字盤に見られる塗料


変わりやすいそして壊れやすい。儚さを楽しむのもアンティークの基本。

アンティーク時計の1つの魅力「塗料の施された針や文字盤」

アンティーク時計よりも、現行品の時計でご覧になられることが多いかもしれません。
陶製の文字盤と金属の針、古くはその2種類が時計の顔を彩る素材でしたが、時計の軍事利用や時代の移り変わりによって、文字盤や針に蛍光塗料が使われる時計が生まれることになります。
ミリタリー系の時計の長針や短針の先端がベンツのマークのように見えることから、日本では「ベンツ針」と呼ばれていますが、そのようなタイプの時計の針に良く使われているものです。
アンティークでは特に1920年~1930年代の時計、特にミリタリー系の時計によく使われているもので、時計によっては今だに光って見えるものもありますが、古いものでは光らなくなっているものも良く見られます。
年代が古いものほど塗料の程よい色変わりと質感が楽しめ、時計に独特の雰囲気を与える、とても魅力のある素材の1つです。

この塗料が使われている時計も、当店ではよく扱わせていただきますが、商品をご購入いただく際は、下記の点についてご理解の上ご購入ください。
アンティーク時計をより理解して楽しんでいただくためには、ぜひ知っておいていただきたいことです。

 

 

いつかは落ちてしまうもの

塗料は長い年月によって劣化していますので、将来にわたって取れない・落ちないことはお約束できません。
塗料の素材自体の強度という点、また針に付いている場合は接着面が非常に少ない、文字盤の場合は接着面がつるつるしていることもあり、元から「しっかり落ちないよう」についているものではありません。
素材自体が非常にもろいものであり、針に差し込まれている塗料は、少し厚めの紙程度の厚みしかないものです。

実物をご覧いただくことができればよくわかるのですが、使われている塗料をみると、小さな粒子が集まっているもののように見えます。
アンティークの古いものほど特にそうですが、小さな粒子が塗料の中に混ぜ込まれて独特の立体感や風合いが出ています。
そのため長い年月によって劣化した塗料は、例えるなら乾燥しきった泥のようなものです。

文字盤の塗料を横から

ある程度の固さこそあるものの、衝撃や劣化によって、時には簡単に接着面に隙間ができ、欠けたり落ちてしまうものです。
その原因は、塗料自体が劣化することによって脆くなっていることはもちろんですが、針に塗料が使われている場合は、金属の針の非常に細い枠組によって支えられているだけで、経年によって脆くなっていることに加えて強度としても十分なものではありません。
また文字盤に塗料が使われている場合も同様で、年代的に陶製の文字盤に使われていることも多いのですが、乾燥した泥のような塗料がつるつるとしたお皿のような文字盤にしっかりと留まるには、劣化した塗料では難しいといえるものです。

そのためこれらの塗料は、納品前に当店でオーバーホールをさせていただく際はもちろんですが、お客様がご利用いただいている時、次回のオーバーホール時にも落ちてしまう可能性があります。
落ちてしまった場合には、できる限り元に戻るように善処はさせていただきますが、塗料の性質上、まったく同じ色合いの物は作ることができませんし、一部を修復することで他にも影響が出ることがあります。

 

 

補修にはリスクを伴います

例えば針の場合が特にそうで、針の一部の塗料が欠損してしまった場合など、それを埋めようとすることで、他の部分の塗料も落ちてしまう可能性があります。
その理由は、塗料が入る針は、針自体の枠組みが非常に細く変形しやすく、わずかな力が加わっても、簡単に動いてしまい、その振動などで他の部分の塗料も落ちてしまいます。
一部の塗料を入れる場合、塗料を入れた後に、塗料の厚みで他の針と当たらないように、塗料を適度な厚みにするため削る作業も必要です。
その作業は本当に繊細で、厚めの紙ほどの厚みしかない・薄い針の枠にわずかに掛かっている塗料を、本当に慎重に削らなければなりません。
削るのは本当にわずかな量ではありますが、同様にその作業が他の部分に影響を及ぼします。

塗料の入った針を横から

また針を補修する工程上、時計の針を機械から出し入れしなければならず、この作業も同様に非常にリスクを伴います。
針を取り出す時の振動、また針を戻す時には、針がしっかりと止まらなければなりませんので、針の差込口を締めなおすこともあり、差込口の締め直し・差し込み直しという2つの作業で振動を受けるリスクを負います。
どの作業も顕微鏡で確認しながらの作業になり、非常にリスク自体が高いものです。

またアンティークの場合は、塗料の粒子自体が非常に細かい、ただ逆に言えば肉眼でも確認できるほどの粒子が見えるほど粗く、簡単に色を作り出す・変えるということができません。
絵具のように色を混ぜて作り出すなら難しくはないのですが、絵具のような簡単に混ざり合う素材ではないため、下地の色は変わっても粒子の色は変わらないなど、色合わせが簡単にできるものではありません。
ですので一部の塗料が欠けてしまっても、同じ色合いの塗料を作り出すことは難しいものです。

 

 

変わりゆくことを楽しむのもアンティークの楽しみ方

補修をさせていただくことはできないことではありませんが、針の場合は一部の塗料が落ちてしまった場合は、針のすべての塗料を入れ替えさせていただくことがあります。
アンティークのものは立体感のある塗料の場合もよくありますが、現行の平面的な塗料に替えさせていただくこともあります。
文字盤の塗料も同様ですが、元と同じ色合いを出すことが非常に難しいため、色合い自体が変わってしまう場合もあります。

新しい塗料を入れた針

新しく差し直した塗料の写真です。平面的で色もアンティークらしい色合いではありません。
きれいになるという長所もあり、元の雰囲気が変わってしまうという欠点もあります。

塗料が抜けた針

塗料が取れた針です。塗料が無くなってしまっても、それはそれで別の味わいがあります。
新しい塗料を入れない、ありのままの姿のほうが雰囲気の良いことが多々あります。

 

このように塗料の補修はできないものではありませんが、その一部の補修となると他に及ぼすリスクが非常に高く、補修をすることで他が破損してしまう可能性も高いものです。
塗料部分は経年でどうしてももろくなる部分で、補修をするにしてもリスクが非常に高いものですが、塗料が無い状態でも決して見た目が悪い・動作に影響のある部分ではありません。
ですので何らかの原因で一部の塗料が落ちてしまっても、アンティークの味としてそのままお使いいただくことをお勧めいたします。

 

時計の状態は、手を加えすぎても良くはならないとは言いますが、ある程度の状態に仕上がったものに手を加えすぎることは得策ではありません。
特に針の塗料部分についてはそれが良くあてはまります。
針の差込口などは金属ですので、出して締めなおしてまた戻すという作業を何度もすることで、針自体も金属疲労を起こしますし、他の部分が落ちたり影響を受けることは、ご説明をさせていただいた通りです。
針の色が古くなる・塗料が落ちることも、これもアンティーク時計の歳の取り方であり、アンティーク時計の味です。
はかないものではありますが、これを楽しむのもアンティークとの付き合い方です。
これらについてご理解いただけない場合は、塗料が使われている時計は避けていただくほうが良いでしょう。

 

 

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